パウダー付き医療手袋は禁止
医師にとっても看護師にとっても医療現場において手袋はかかせません。
ラテックスや天然ゴムで作られた医療用手袋には滑りをよくするため、
手袋の内側にコーンスターチパウダーなどが塗布されています。
しかし、、
厚労省は、「2年以内にパウダー付き医療用手袋の流通禁止」を発表しました。
パウダー付き医療用手袋はなぜいけないのか?
調べてみました。
医療用手袋の歴史
医療用手袋は、患者への感染や医師や看護師への感染を防ぐ上で、医療行為においてもはやかかせないものです。
厚生省の資料によると、
世界における医療用手袋の年間の使用量は、
- アメリカ : 4億4,600万枚
- ヨーロッパ : 3億6,100万枚
- オセアニア : 3,600万枚
で、
日本でも7,800万枚
が使われているそうです。
医療用手袋はいつ頃から、誰が使い始めたのでしょう、、、
医療用手袋を考案したのは、ジョンズ・ホプキンス大学のウィリアム・スチュワート・ハルステッドだといわれています。
ハルステッドは、レジデント制度の父と呼ばれていますが、
- ハルステッド鉗子
- ハルステッド式乳房切断手術
などにも名を残し、近代外科学において多くの功績を挙げています。
1890年頃のアメリカでは、手術時には昇汞(塩化第2水銀)による手洗いの後に素手で手術がおこなわれていたのです。
しかし、昇汞による手洗いでは皮膚荒れが激しく、ジョンズ・ホプキンス大学でハルステッドの手術助手を務める優秀な看護師であるキャロライン・ハンプトンも、手荒れがひどく、看護師の職を離れようとしたのだそうです。
そこで、ハルステッドは、
タイヤメーカーのグッドイヤー社に、ゴム製の薄い手袋を作らせたのだそうです。
これが、他の看護師や外科医に好評で、
その後世界中で使われるようになったのだそうですが、この事実は消毒薬の刺激作用について述べられた医学雑誌の論文に記載されているそうです。
この看護師、キャロライン・ハンプトンは後のハルステッド夫人です。
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パウダー付きの医療用手袋は禁止に
医療用手袋のにはJIS規格が設けられ、手袋の寸法やピンホールなどの品質・性能などについて、検査水準や合格品質水準が定められています。
医療用手袋の素材には2種類に分類されており、
例えば、
- 1種 : 天然ゴムラテックスで製造されている製品
- 2種 : トリルゴムラテックス、ポリクロロプレンゴムラテックスなどのラテックスなどの製品
などです。
多くの医療用手袋には、
着脱を容易にするために、コーンスターチ等で作られたパウダーが付いているのですが、
厚生労働省は、平成28年12月27日、
医療用手袋の製造メーカーに
2年以内にパウダー付き医療用手袋の流通を差し止めるように要請した
と発表しました。
くわしく見る ⇒ 厚労省プレスリリース
要旨
2016年12 月19 日、米国食品医薬品局(DFA)は、平成29 年1 月18 日より、パウダー付き医療用手袋の流通を差し止める措置をとることを発表した。これを受けて、厚生労働省も、一層の安全性確保の観点から、パウダーフリー手袋への供給切替えを促すため、製造販売業者に対して、2年以内に供給切替えを行うよう通知しました。
というのです。
世界的に、パウダーが付いていないパウダーフリーの医療用手袋への切替えが進んでおり、パウダーフリー手袋の比率は年々増加していますが、日本グローブ工業会は、米国での措置を踏まえ、パウダーフリー手袋への供給切替えの強化に取組むことの報告を受けたという背景があるようです。
国内ではパウダー付きの医療用手袋は20種類程度流通しており、
厚生労働省の資料によると、国内におけるパウダーフリーの医療用手袋の比率は年々増加しているものの、
いまだ、医療用手袋の流通量の4割近くを占めており、パウダーフリーへの切り替えもアメリカやヨーロッパ諸国よりも遅れているようです。
イギリスやドイツでは既にパウダー付き医療用手袋の使用は禁止されているそうです。
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パウダー付き医療用手袋はなぜ悪い
今回の厚労省の通達は、
アメリカの食品医薬品局(FDA)がパウダー付き医療手袋の流通を差し止めたことに追従するものなのですが、
パウダー付き医療手袋はどうして悪いのでしょうか?
米国医薬品局(FDA)は、2016年3月21日に、
パウダー付き医療用手袋の禁止を提案
しています。
FDA proposes ban on most powdered medical gloves
Today, the U.S. Food and Drug Administration announced a proposal to ban most powdered gloves in the United States. While use of these gloves is decreasing, they pose an unreasonable and substantial risk of illness or injury to health care providers, patients and other individuals who are exposed to them, which cannot be corrected through new or updated labeling.
くわしく見る ⇒ FDA Immediate Release
これによると、
コーンスターチなどを原料としたパウダーを塗布した天然ゴムラテックス製手袋では、
着脱時にラテックスを吸着したパウダーが浮遊しやすく、吸い込むとアレルギー反応を誘発し重度の気道炎症や気道過敏性の亢進をもたらす可能性がある
ことが指摘されているというのです。
さらに、
ラテックスか合成ゴムかにかかわらず、気道炎症や肉芽腫、腹膜癒着といった有害事象もが報告されている
としています。
そして、これらのリスクは製品表示の改訂だけでは避けられないとして、
- 流通している手術用や検査用のパウダー付き手袋
- 手袋の滑りを良くするための吸収性パウダー
を有害医療器材に指定して使用を禁止する規制案を提案したのです。
昨年12月19日のFDAの「パウダー付き手袋の使用禁止」の発表は、
3月の提案に対するパブリックコメントも勘案し、最終的な規則として発表されたものです。
この規則の発効日は2017年1月18日ですから、アメリカでは明日から全ての医療機関からはパウダー付き医療用手袋が完全に消え去ることになるのです。
アメリカでは、外科学会(ACS)などの関連学会もパウダー付き医療用手袋には否定的な見解を示しており、既にほとんどの医療機関ではパウダーフリー医療用手袋に切り替わっていることから、
FDAは、パウダー付き医療用手袋と同等の機能をもつパウダーフリーの医療用手袋が普及しており、
今回の禁止令による経済的影響はほとんどないとコメントしています。
しかし、
国内ではまだ多くのパウダー付き医療手袋が製造販売されており、
「2年以内の流通禁止」は業界にどのような影響を与えるのでしょうか、、、。
なお、厚労省では、パウダー付き医療用手袋における医療事故では、
平成18 年に1件のアナフィラキシーショックの報告
だけだそうで、
それもパウダーによるアレルギー誘発であるかは不明で、
最近8年間は医療用手袋によるアレルギーなどの有害事象は報告されていないと述べています。
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